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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)15062号 判決 1976年3月29日

原告(両事件)

杉田正

原告(両事件)

杉田安三

右両名訴訟代理人

中川清太郎

外二名

被告(昭和四三年(ワ)第一五〇六二事件)

石坂哲

被告(昭和四六年(ワ)第五三八六事件)

石坂純

右両名訴訟代理人

湯浅實

主文

一  被告石坂哲は、原告らに対し、原告から金一一八四万八三二一円の共同支払を受けるのと引換に、別紙物件目録(三)1、2の建物部分を明渡せ。

二  被告石坂純は、原告らに対し、被告石坂哲が原告らから金一一八四万八三二一円の共同支払を受けるのと引換に、別紙物件目録(三)2の建物部分を明渡せ。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの、その余は被告らの各連帯負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告ら

1  被告石坂哲は原告らに対し、別紙物件目録(三)1の建物部分を明渡し、かつ昭和四三年九月二六日から右建物明渡済に至るまで一ケ月金二万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

2  被告らは各自原告らに対し、同目録(三)2の建物部分を明渡し かつ昭和四三年九月二六日から右建物明渡済に至るまで一ケ月金二万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

3  被告石坂哲は原告杉田正に対し、金一二万八三三三円およびこれに対する昭和四三年九月二五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告らは各自原告杉田正に対し、金一二万八三三三円およびこれに対する昭和四三年九月二五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

6  仮執行宣言。

二、被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一、原告らの請求原因<以下略>

理由

一請求原因について

1  <証拠>によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告正は、父である原告安三を通じて、昭和四二年七月一九日訴外登との間で債権者原告正、連帯債務者右登、訴外郁子および被告哲として、金四三〇万円を、弁済期間同年九月一八日、利息日歩四銭、遅延損害金日歩八銭の約定で貸付ける旨の消費貸借契約をなし、同年七月一九日、右登に対し、弁済期まで六二日分の利息金一〇万六六四〇円を天引して現金四一九万三三六〇円を交付した。

(二)  更に原告正は、原告安三を介し、同年九月二八日、被告純との間で、原告正を債権者、被告両名を連帯債務者として、新たに金二六六万五六〇〇円を貸し増すとともに、右(一)の貸付元本およびこれに対する同月一九日から二八日まで一〇日分の前記約定の日歩八銭の割合による遅延損害金の小計金四三三万四四〇〇円をあらためて消費貸借の目的とすることとし、右合計金七〇〇万円につき、弁済期を同年一一月二七日、利息年一割五分、遅延損害金年三割とする旨の消費貸借契約を締結し、同年九月二八日、被告純に対し、右金七〇〇万円に対する約定の年一割五分の割合による同年一一月二七日までの二ケ月分の利息金一七五万五〇〇〇円を右金二六六万五六〇〇円から天引して金二四九万六〇〇円を交付した。

(三)  原告正は、原告安三を通じて、右昭和四二年九月二八日、右(二)の契約に際し、被告純との間で、被告哲所有の本件土地建物につき(本件土地建物が当時被告哲所有であつたことは当事者間に争いがない)、被告らの前記(二)の債務を担保するため、順位二番の抵当設定契約並びにいずれも右債務の不履行を停止条件とする代物弁済契約および賃貸借契約を締結し、同年一〇月二日右各契約に基づき抵当権設定登記、条件付所有権移転仮登記、停止条件貸借権仮登記を経由した(右各登記がなされたことは当事者間に争いがない。)。<証拠判断略>

2  原告らは、前記1(一)の契約は登が、前記1(二)、(三)の各契約は被告純がそれぞれ被告哲を代理してなしたものである旨主張し、被告らは、右主張が準備手続終結後にあらたに提出されたから許されない旨主張する。

原告らは、本件準備手続中には右主張を提出せず、その終結後にあらたに右主張をなしたものではあるか、本件訴訟においては、前記1(一)ないし(三)の各契約締結に当つたのが被告哲か否か被告哲以外の者とすればその者が被告哲を代理する権限を有していたか否かは当初から当事者間の争点となつていて、その点についても証拠調が履行されたことは弁論の全趣旨により明らかであり、原告らの右主張が出されたことによつてあらたな証拠調が必要となつたわけでもなく、右主張によつて著しく訴訟を遅滞させるものではないから、被告らの右主張は理由がない。

そこで、訴外登および被告純が被告哲を代理する権限を有していたか否かについて判断する。

<証拠>を総合すると、次の各事実が認められる。

(一)  訴外郁子、同登、被告純および同哲らは兄弟であるところ、同人らにおいて共同で居住し得る建物を建築することを計画し、昭和四一年六月八日訴外伊藤末治より被告純名義で本件土地を購入し、右土地および右土地に隣接する右伊藤所有の土地上に伊藤と共同で貸店舗兼マンシヨン(赤松シヨツピングセンター)を建設することとなつた。その際、右建設に要する資金として前記太陽生命より金一五〇〇万円を伊藤が主債務者、登が連帯保証人として借受け、右借入金については右両名が折半して分割弁済することとした。そして、昭和四二年二月頃右シヨツピングセンターは完成したのであるが(本件建物はその半分を構成することとなる)、伊藤は、同月一四日右シヨツピングセンター全体について同人の単独名義で保存登記を経由し、右太陽生命に対して第一順位の抵当権を設定し、その後同年三月末頃被告らおよび郁子が本件建物に入居した。ところで右建物建設については、石坂側では登が主体となつてその衝に当つてきたものであるところ、次第にその手持ち資金に行き結りを生じ、更に登が代表取締役であつた石坂興業株式会社が倒産するに至る事態となり、右登において、伊藤に対し本件建物についての諸立替債務を負担するほか、数名の金融業者から借入債務を負担するに至つた。そこで、登は、昭和四一年頃知人を介して知り合つていた原告ら(米穀業)に融資方を依頼することとし、被告らの、諒承のもとに、前記一(1)の契約をなした。

(二)  しかるに、登や被告らは、右借入について弁済期が到来しても支払ができず、更に登が伊藤および他の債権者らからも支払の催告を受けて一時姿を隠す事態が生じたため、被告らおよび郁子は、右借入について事後の処理をなさざるを得ない状態となり、主として被告純がその衝に当り、まず伊藤との間において被告哲名義で、「伊藤に対する諸立替債務を清算したときには、本件建物を被告哲の所有名義とする。」旨の裁判上の和解をなす一方、被告純は、原告らに対して再度融資の申入をし、その借入金によつて伊藤や他の債権者らに対する債務を弁済し、本件土地建物を被告哲の所有名義としたうえ、これを原告正に対して担保に供することとして、前記1(二)、(三)の各契約を締結した。

(三)  他方被告哲は、本件建物の建設に至る事情並びに経過、右建設資金を得るため登が前記1(一)の契約を締結せざるを得なかつたことについては兄弟間のことでもあつて知つており、右契約締結のために登に対して自己の実印の使用を許していた。更に登の失踪においては、被告純が事後の資金面での処置を諾せざるを得ないこととなつたが、被告純は、自分が公務員であり、郁子は女性であることを考慮して、本件土地建物を末弟の被告哲所有名義として右借入金等の処理をすべて、被告哲の名義でなすこととした。被告哲は、右事情を十分承知したうえで本件土地建物を同被告名義とすることに同意し、また、被告らが原告らからの再度の融資を受けざるを得なくなつた事情をも知つたうえで被告純に自己の実印を使用することを承認していた。

(四)  右認定の各事実によれば、被告哲は、前記1(一)の契約の締結に際しては登において被告哲を代理して該契約を締結すべきことを黙示的に承諾していたものと推認せられ、また、1(二)、(三)の各契約締結に際しては、被告純が被告哲を代理してこれら契約を締結すべきことを承認していたものと認められる。<証拠判断略>

以上によれば、原告正は、右各代理人を介して被告哲との間に、本件各契約を締結したものというべきである。

3  原告正が、昭和四三年四月一八日被告哲に到達した書面をもつて前記1(三)の停止条件の成就により右債務の弁済に代えて本件土地建物の所有権を取得する旨の通知をなしたこと、本件土地建物につき同月二二日右代物弁済を原因とする原告正への所有権移転の本登記がなされたことは当事者間に争いがなく<証拠>によれば、原告正は、原その後原告安三に対し、本件土地建物につき三分の二の持分を譲渡し、同年九月二五日、所有権一部移転登記を経由した(右登記がなされていることは争いがない)ことが認められる。

4  被告哲は、本以建物のうち別紙物件目録(三)1の建物部分を、また被告らは、同目録(三)2の建物部分を、それぞれ昭和四三年四月二二日以降占有していることは当事者間に争いがない。

そこで次に、被告らの引換給付の抗弁について順次判断する。

二本件仮登記担保権の性質について

本件停止条件付代物弁済契約が債権担保の目的を有するものであることは当事者間に争がないから債権者はその債権額と担保物件額とについて清算を行うべき義務があるところ、この点につき原告は、本件仮登記担保関係はいわゆる処分清算型に属すると主張する。しかし本件全立証によるも、原告方と前記伊藤との間で一時本件物件の処分話が出たことのあるは格別、原告方と被告哲との間で、特に原告において本件物件をさきに処分し、その後にのみ清算金を支払えば足ることを肯認させる客観的合理的な事実の存在は何らこれを認めることができないから、本件仮登記担保関係は一般の例によりいわゆる帰属清算型に属するものというべく、従つて、本件土地建物につき適正な評価を為し(なお本訴は本件建物の一部の明渡を求めるものであるが、清算の関係では、本件土地建物の全部について評価を行うべきことは当然である)、右評価額が債権額を越えるときは、清算金たるその差額の支払と引換にのみ、本件明渡の義務があるとの被告らの主張は理由がある。

三そこで次に、右評価の時期について考えるに、帰属清算型の仮登記担保関係においては、例えば停止条件付代物弁済契約の条件が成就し、更には目的物件の所有権移転の本登記が経由された後においても、未だ債権者において評価清算を実施しない間は、債務者は、債権額等を払うことによる物件の取戻か又は清算金の支払物件の引(明)渡との引換給付を主張し得るものと解せられるところ、右評価清算の時期については、裁判外の場合はともかく、本件の如く訴訟手続においてこれが主張のあつたような場合においては、仮登記担保権に基づく訴訟手続内の一定時期を基準として、債権額(被担保債権額および費用額)の計上とともに、当該物件の適正な評価を行つて清算金の額を算定することが、担保目的の実現とそれに伴う粉争を一挙に解決し、かつ、公平な清算を図るうえで相当であると解せられ、かかる見地にたつときは、右清算の基準時は事実審たる当審の口頭弁論終結時と解すべきである(最高裁判所昭和四五年九月二四日判決、民集二四巻一〇号一四五〇頁参照)。

四そこで、本件口頭弁論終結時における債権額と物件評価額について検討する。

(一)  <証拠>を総合すると、原告正が本件口頭弁論の終結時たる昭和五〇年一二月二二日当時、被告哲に対して有する被担保債権額および本件土地建物につき第三者の担保権、貸借権等の負担のない所有権を取得するために支出した費用額は次のとおりであることが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない

1  貸付元本  金六九九万五六二五円(制限利息超過の天引額を別紙計算記載のとおり元本に充当する)。

2  右に対する昭和四二年一一月二八日から同五〇年一二月二二日まで八年と二五日分の年三割の割合による遅延損害金(利息は天引済)  金一六九三万三二四五円(円未満切捨)

3  本件土地建物につき代物弁済による所有権移転登記手続に要した費用  金四三万三〇五〇円

4  本件土地建物につき先順位の抵当権によつて担保されている太陽生命の被告哲に対する債権についての立替返済金  金七七四万八九五九円

5  本件建物の賃借人訴外実川正義、同大久保吉郎に対する本件建物についての承継敷金返済分  金三二万二〇〇〇円

右以外の原告ら主張の修繕費および固定資産税については、おそくとも昭和四三年四月二二日の代物弁済による所有権移転本登記経由後は、原告正において本件土地建物の管理権能を取得し、また実際にも、被告らの占有部分をのぞき、同原告において現にこれを使用収益していることが弁論の全趣旨により明らかであるから、右各費用は原告正において負担するのが相当というべく、清算金の算定に当つて右金額を本件土地建物の評価額から控除すべき旨の原告らの主張は理由がない。

なお、被告らの、本登記後の遅延損害金は原告らの本件建物の賃料収入と相殺勘定されるべきであるとの主張は、右説示のとおり、代物弁済による本件土地建物の所有権移転登記後は原告正において右管理処分権限を取得している反面、その維持管理費を負担する関係にあるものというべきであり、かつ、右賃料収入額が維持管理のための負担額を超過していることを認めうべき証拠もないから、右主張も理由がない。

(二)  他方、鑑定の結果によれば、昭和四九年一月当時における本件土地建物の貸借人の存しない状態での評価額は金四四二八万一二〇〇円相当と認められ、同月から本件口頭弁論終結時までの間に右価格に高騰などの著しい変動を生じたとの事実も認められないから、右の評価額をもつて口頭弁論終結時の価格と認めるべきものである。

(三)  以上のとおり、本件被担保債権額は前記(一)の1、2の合計金二三九二万八八七〇円であり、前記(一)の3ないし5の合計金八五〇万四〇〇九円は原告正が本件土地建物につき第三者の担保権や賃借権の負担のない所有権を取得するためなどに要した費用として清算に当つて右評価額から控除すべきものと解されるから、右(二)の評価額金四四二八万一二〇〇円から、以上の金三二四三万二八七九円を控除した残金一一八四万八三二一円が被告哲に対して交付されるべき清算金である。

五ところで<証拠>によれば、原告安三は第二回目の貸付に際しては自ら資金を提供し、本件仮登記担保関係の内容を熟知のうえ、右出資金の回収を確実にするため本件土地建物についての持分を取得したものであることが認められるから、原告安三は、本件土地建物について原告正と共同して本件仮登記担保権を取得し、これを行使うる地位に立つものというべく従つて、原告安三においても、同正と共同して被告哲に右清算金を支払うのと引換えにのみ、被告らに対し本件建物部分の明渡を求めうるものというべきである。

六なお原告らの本訴請求中、本登記以後の本件建物の不法占有を理由にした賃料相当損害金を求める部分については、上記のとおり原告らの金一一八四万八三二一円の清算金の支払いと被告らの本件占有部分の明渡しは同時履行の関係に立ち従つて、被告両名は右清算金の支払いあるまで右部分を占有する権限を有するものというべきであるから、原告らの右請求は理由がない。

七以上の次第であるから、原告らの本件仮登記担保権に基づく被告らの本件建物の占有部分の明渡し請求は、原告らが共同して被告哲に対し金一一八四万八三二一円の支払いをなすのと引換えに明渡しを求める限度で理由があるから主文第一、二項掲記の範囲でこれを認容し、その余の請求については理由がないから棄却することとし、民訴法九二条、九三条一項但書を適用して主文のとおり判決する。

なお仮執行の宣言は、相当でないと認めるのでこれを付さない。

(小谷卓男 山本矩夫 梅津和宏)

物件目録《省略》

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